2014.10.13

野分(夏目漱石、青空文庫)

2014.10.08読了。

同窓生として大学を卒業した後、実業界に入って経済的に成功した人達と、学究肌で教職などについて経済的に苦労している人達の対比を、苦労している人側の視点を中心に、経済的な成功ばかりが評価される時代を批判的に書いている内容。当時の大学生は現在とは比べられないような超エリートだったはずだが、それでもその後の生活は大きく変化していたらしい。

主題とは関係ないが、描写がのちの長編小説の習作のような場面が多数ある。それから(?要確認)での結婚式のシーンやこころでの先生と私のやりとりなど。時系列的には数年後に書かれる作品への前哨なので当然なのかもしれない。

ここまでの作品では、坊ちゃんをはじめとして社会批判的な内容が多かったが、以後の長編からは消えていく。小説で食べていく立場になって大人になったのか、書かせる側の新聞社からの制限なのか、経緯を調べてみたいような気がする。

2014.10.06

国家(プラトン、岩波文庫、上巻1,100+下巻1,100税別)

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2014.09.24 読了

理想の統治形態は"哲人政治"であるという哲学的な議論が主題とされているが、それよりも、議論での国家のあるべき姿が保守系政治家の主張と合致していることが興味深かった。具体的には、死を怖がらずに戦う戦士を養成するためには、戦争への否定的な表現(恐怖や悲しみ)についての詩作や演劇表現は制限し、若き戦士たちがそれらの影響を受けないようにしなければならないという主張など。

一方、すぐれた人が自分から指導者になることはなく、自分より劣ったものの支配を受けることに耐えられない状況になって仕方なく指導者になるという指摘は、2000年以上の時を超えて現在にも通用している。

2014.10.02

資本主義の終焉と歴史の危機(水野和夫、集英社新書、740円税別)

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2014.10.02読了

長期的なゼロ金利は、資本の利潤率ゼロを意味し、グローバル化で世界中が資本主義に組み込まれて、新たな"周辺"がなくなりつつある今、資本主義が崩壊しようとしているという主張。

あまりにも明快ですんなり頭に入ってくる本なので、トンデモ本なのかなとも心配になるが、バブル崩壊を繰り返す最近の経済の動きを見ていて、「本来は不景気が常態なのではないか」と感じ始めていた自分の考えを、資本主義の歴史と重ねて説明してくれる本書には、やっぱりねと納得させられる。

著者が民主党政権の経済ブレインだったと知って、民主党政権の経済政策がほとんど無策だった理由がわかった。経済成長が無意味と諭されては政治家は何もできなくなる。埋蔵金探しに走ったのも経済成長なしに収支を改善する数少ない手段だったのだろう。

歴史上初めての事態への対応方法はわからない。世界経済は慣性力で数十年は、今の仕組みで動くだろうから、自分では新しい世界を見ることはできそうもないのが残念、いや幸せなのかも?

2014.07.06

絶対に受けたくない無駄な医療(室井一辰、日経BP)

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2014.07.04 読了

アメリカで始まっているという、”Choosing Wisely”という、効果のない医療をやめる活動の概要と、個別の治療毎の問題点を説明した本。日経ビジネスオンラインの著者の記事を読んで買ってみた。

アメリカでの活動が本当に各学会が積極的に参加したものならば画期的かもしれない。あるいはオバマケアで国民皆保険が始まるアメリカでの医療費の削減ニーズは大きいはずで、この活動は保険会社や政府などのお金を出す人たちからの圧力を示すもので、各学会の参画は形だけのものなのかもしれない。この本ではアメリカでお金を出す人が、この活動にどのように関与しているかが書かれておらず、その点で信頼性に欠ける。

本当に学会が参画しているのならば、意味のない医療行為はやめる、意味のある医療は非常に高額で低水準の皆保険の範囲では対応しないというシステムにして、実質的に低収入の人達には初歩的な医療だけを提供するシステムを組み上げるという意味なのかなと想像してみたりするが、その辺りも良く分からない。

印象としては週刊誌の特集記事に近い。現にこの著者は健保連と人間ドック学会の判定基準見直しネタで週刊誌に記事を書いたとも書かれている。疑い出せばきりがないが、室井という姓は金沢出身の室生犀星と連想するし、一辰の辰は金沢東方の卯辰山を連想する、そういうペンネームなのだろう。

自宅で死ぬ話の本とならんで、団塊の世代の医療費増大を抑えるがためのプロパガンダ本の一種のような読後感で、ちょっと損した気分になった。

2014.06.29

神様のカルテ(夏川草介、小学館)

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この春、大学進学で家を離れた下の子が置いて行った本から見つけて読んでみた本。

夏目漱石を模したと作中でも語られている一人称の文体が読み辛くて、何度か断念しかけたが、それに慣れてきてようやく読み終えることができた。夏目漱石の文体はこんなには”くどく”はない。

内容はどこかで読んだ/観たことのあるような地域医療を支える医師の活躍談で、本の帯に書かれているほどの深い感動は感じない。しかし、50歳を過ぎて、涙腺の締まりが悪くなった体は素直に反応して何度か泣かされることになった。

2014.06.19

考えるヒント(小林秀雄、文春ウェブ文庫、Readerストア)

2014.06.17読了

昭和30年代後半の文芸春秋と朝日新聞への連載をまとめた随筆集。

高校入試で何度か読んだ小林秀雄の随筆を久しぶりに読んでみたくなって購入、最初は気合を入れて入試問題を読むように熟読し始めた。当時はWebもなかったので、分からないことがあってもせいぜい辞書や百科事典を当たるしかなく、中途半端であきらめるしかなかったが、現在は芋づる式に情報が出てきて理解が深まる。とはいえ、それは結構疲れる作業でもあって、半分ぐらいまではがんばって熟読してみたが、著者の50年前の考えを必死で追う必然性を考え直して熟読は中止し、以後は普通に読んだ。

なぜ難解に感ずるのかを考えながら読んだが、結局のところ著者と読者の知的背景、これまでに得た知識や関心を持つ分野などが違っていることに尽きると感じた。これまで深く学んだことのない本居宣長の話が突如出てきてもついていけないが、少しでも読んだことがある福澤諭吉の話ならついていけるし、理解も進む。当時の文芸春秋の読者にはこの程度までと想定していたということだろう。後半に出てくる朝日新聞での随筆は知的背景のレベルを下げた内容で、気楽に読むことができた。

現代の文章では「わかりやすい表現」が当たり前に求められることには、議論の深みがなくなるといった批判もある。でも、専門家の蛸壺があらゆる分野に広がった現代では、読者にとって専門外の情報を正しく理解してもらいたいという姿勢の方が、結局のところ得るところが大きいと、この本を読んで改めて理解した。

面白かったのは最後に出てきたソ連訪問に関する随筆と講演録でのソ連に対する肯定的な記述だった。Wikipediaを読む限りでは戦前、戦中、戦後と複雑な知的遍歴を経ている著者が、単純にソ連を肯定するとは思えないが、当時は著者を巻き込む何らかの「時代の流れ」があったのかもしれない。

著作を深く理解するためには、著者の一生を俯瞰して理解しなければならないとすると、研究対象として真剣に取り組む必要がある。そんな気力も能力もない私は、もっと気楽に読めるものを選ぶべきかなと感じる。

2014.06.08

氷点(三浦綾子、角川e文庫、ReaderStore)

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2014.05.31 読了

キリスト教の本を読んでいて、キリスト教の「許し」をテーマにした本だと紹介されていたので読んでみた。確かに、許しがテーマであり、キリスト教へ向かう場面もあるのだが、特別にそれを意識した小説とは感じなかった。

著者のデビュー作ということもあり、重たいテーマに比べて描写があっさりし過ぎていること、ストーリーもいかにもありそうな展開で、全体に古さを感じてしまった。でも、こういった作品をお手本にして、いわゆる昼メロや昭和時代のドロドロしたドラマが作られたんだろうなと思う。

続編を読んでみたいような、もうお腹いっぱいのような感じで、とりあえず判断は先送り。

2014.05.15

第五の権力(エリック・シュミット、ジャレド・コーエン、ダイヤモンド社)

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GoogleのシュミットCEOと元米国務長官スタッフがまとめた、世界中の人達がインターネットに接続される近未来の国家、戦争、テロ、復興の未来を予想している本。

書いてあることはなるほどその通りだろうなと思わせる内容で、特別に新しい知見ではない。現時点ではインターネットにつながっていない世界の2/3の人達が従来技術を飛び越えて一気にインターネットにつながり始めることで構築される仮想的な世界は、現実世界よりも良い世界が作り出せるわけではない。現実世界のような暗黒面もあるし、現実世界と同じように世界を良くする活動もある。いずれにしてもその変化の速度は大きく、国家側よりも市民側が獲得する力が大きくなるだろうという予想。

記述の中には、Googleが個人情報を含めた世界のすべての情報を蓄積していればこそ、世界が変革できるという主張がさらりと書かれていて、Googleの活動の正当性を訴えたかったのかなと思わせる。

また、GoogleやAmazonやFacebookが若者に娯楽を提供することで、若者の反体制感情の高まりを抑えるガス抜きとして役に立っているという主張もあった。

この本は昨年、アメリカで出版された本だが、この本以後、発展途上国向けの低価格端末市場への着目が一気に進んだように感じる。20世紀のテレビの役割を携帯端末が担うというという認識が、一気に広まるきっかけとなったのではないかと推測する。

2014.04.29

青空のリスタート(富田倫生、青空文庫)

青空文庫創設者である富田さんが亡くなって著作が青空文庫に登録された。それを契機に読み始めたうちの一冊。

この本は、雑誌パソコンマガジンに書いていた「インサイドウォッチャー」というコラムが雑誌休刊に伴って終了した後に、その後の状況についてのやや長いコメントを追加した本。著者の肝炎発症の時期の著作で、コラムだけでなく自分の病状や親との関係についての生々しい記録も含まれている。コラムが連載されていた1990年前後の僕は、仕事やバイクで忙しかったが、それでもまだパソコン関係の雑誌はたくさん読んでいた時期なので、このコラムの啖呵を切るような独特の文体も覚えている(でも、立ち読みだったような気もする)。

現在はNB Onlineなどいくつもコラムを持っている小田嶋隆さんも、当時はBug News Networkというマイナーなパソコン誌というよりアングラ誌に近い雑誌でコラムを書いていて、ちゃんと雑誌を買って読むほどに愛読していたが、富田さん同様に雑誌が休刊になって残念だったことも記憶にある。

この本の中では"その人が背負っている重荷"をあからさま見せられるが、「何かを残せる人はとんでもない重荷を背負っている人の中から選ばれるし、荷物の小さい人は小さいなりの普通の人生を送るもの」なんだなと改めて思う。

2014.04.20

アンドロイドは電気羊の夢を見るか(フレデリック・K・ディック、ハヤカワ文庫)

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GoogleのAndroid端末Nexusシリーズの名前の由来となった小説。作中に出てくる新世代アンドロイドの型式名がNexus6だった。大学時代に映画"ブレードランナー"の原作として注目されていたが、先送りしてすっかり忘れていたものを、GoogleのNexusシリーズの記事から再発見して読んでみた。

日本のロボット物は、役に立つ忠実なロボットの活躍がほとんどだけど西欧文明では批判的に書かれる。根底にキリスト教の人間と神の関係があり、神のつくられた人間でさえ完全でないのだから、ロボットは欠陥があって当然で、欠陥のある人間は恐怖の対象ということか?

2014.04.17 読了

«Microsoftはどこへ向かっているのか?(Build2014)