読んだり聴いたり観たりしたもの

2016.08.23

がん--4000年の歴史(シッダールタ・ムカジー、早川書房、920+920+税)

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2016/08/18 読了。

がん治療の試行錯誤の歴史をまとめたドキュメンタリー。一気に読ませる魅力あふれる文章を楽しんだ。

現在の各種の治療法が、どのようなアイデアをもとにいつ頃に開発されて現在に至っているかを把握できて、がん治療の全体像の理解が進んだ。結局のところ、一部のがんは抗がん剤で十年単位の延命ができ始めているが、ほとんどのがんは1970年代までと同じく、切除や放射線治療と全身を痛めつける抗がん剤の併用しか手がないことを再確認。

2016.04.15

僕が伝えたかったこと(古川享、インプレスR&D、Kinoppy@iPad)

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2016.04.13 読了。

アスキーからマイクロソフト株式会社社長、会長、米Microsoft副社長を経験した著者の自伝。発作で倒れたことをきっかけに、言い訳したかったことを書き残したいというのが出版の動機なのかなと思う。内容はアスキーの内幕部分の比重が高くて、資料性にはやや欠ける感じ。

同時代に大阪の片隅でコンピュータ系サークルに参加していたが、この本にあるような大きな動きには関われなかった点はさみしく感じる。でも、その後の各メーカーの状況を考えると、この業界に進まなかったことは幸せだったのかなと思う。

2016.04.01

読書 太陽の季節(石原慎太郎、幻冬舎、ReaderStore、iPad)

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2016.03.26 読了。

デビュー作らしい粗削りさと、本人に由来すると思われる暴力性に辟易して、読み続けるのがきつかったが、短編集の最後の「乾いた花」だけは秀逸の出来で、一気に読み終えた。ただし、あとがきによれば、この作品だけは幻冬舎版を出す際に手直しをしたとのことなので、その推敲が効いている可能性はある。

表題作はわかりやすいが、内容が浅く、芥川賞に値するようには感じられない。本当の受賞作は「乾いた花」だったが、賭博に殺人という内容では具合が悪くて、無難な表題作が選ばれたのかもなと想像。手を入れる前の乾いた花がどんな作品だったかを、図書館の古い本で確認したくなった。

2016.02.09

読書 ティファニーで朝食を(トルーマン・カポーティ、村上春樹訳)

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2016.02.08読了。

映画は見ていない。ラブロマンス的な印象を持っていたが、その要素もあるものの、主題はずいぶん違っている。社会に不適合な、あるいはより良く表現するなら"自由な"若い女性とひと時をすれ違った作家志望の男性の数か月の物語。一緒に収録されている短編も含めて、自由がテーマなのかなと読み進めていたが、巻末の訳者あとがきで、若さからくる"イノセンス"が年齢と共に失われていく姿がテーマとされていて納得。

1980年代の雑誌の全盛期には、自動車雑誌などでも、この作品のような短編が連載されていたのを思い出す。web上に移ったメディアでは、連載/短編小説は見当たらないのは残念。当時の紙の雑誌も現在のwebも広告ベースである点は変わらないとは思うが、集まる原資の額が違うということか?こういうものが、どこかで提供されているなら読んでみたい気がする。

2015.12.13

Netflixの時代(西田宗知佳、現代新書、ReaderStore)

Netflix

2015.12.13読了

映画やドラマのネット配信事業の今をまとめた本。映画もドラマもあまり見ないが、世の中はどうなっていくのかという興味で読んでみた。
日本のコンテンツ企業は囲い込みたがる保守的な人たちというのがこれまでの印象だが、それもようやく変わり始めているというのが全体を通しての話。

この本に書かれていたわけではないが、おそらくは企業の役員クラスに、ディスク以外のメディアを使いこなす人が含まれるようになったというのが変化の理由のひとつではないかなと思う。役員として新しいメディアへの進出を判断する際に、それがどんなものかを理解できていることは前提条件であり、ようやくその条件が満たされるようになったのだろう。

2015.10.19

人間の土地(サン・テグジュペリ、堀口大学訳、新潮文庫)

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2015.10.17読了。

勃興期の郵便飛行操縦士として体験した、空の素晴らしさと怖さ、砂漠の魅力と遭難の危機などを通して、人の生き方への様々な示唆を与えてくれる。堀口大學さんの訳が名訳すぎるためか、ちょっと難解な部分も多いが、詩とエッセイの中間のような文章にはどんどん引き込まれる。

表紙は宮崎駿さんのイラストで、巻末には短文と地図が添えられていて、お得感もある。宮崎さんの文章(1998年)は、その後の作品である"風立ちぬ"へのつながりが感じられて、録画を観た少し後というタイミングも幸運だった。

2015.10.05

京都(黒川創、新潮社)

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2015.10.04読了。

在日、非差別地区そしてヤクザという、関西での生活では無意識レベルに意識しているが話題にすることが避けられるテーマを、ストレートに扱った小説。発売直後は物議をかもしたためか、しばらく紀伊國屋Webストアでは在庫切れになっていた。

おそらくは著者の自伝的な内容で、当事者ではないが、そういう人たちとのかかわりの中で生きてきた人生をつづっているのだと思う。

4つの短編からなっているのだけれど、どの話も自分にもこういう体験があったような気がする。でも細かい昭和の描写に関するものを除けば、ドロドロした人間関係など、そんな経験はしているはずがないのだが、そういう既視感から、身近な出来事だったと感じさせられる不思議な小説だった。それは思春期から青年に至るザワついた時期を関西で過ごした人たちに共通する"友達の友達"的な体験なのかもしれない。

2015.09.28

信長の棺 上・下(加藤廣、文芸春秋、ReaderStore)

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2015.09.26読了。

本能寺の変の後、信長の遺体が見つからなかったという謎を、信長公記の作者である太田牛一の立場からの謎解きという視点で書かれた歴史小説。

読みやすい文体かつ飽きさせない展開で、一気に上下巻を読み終えた。謎解き自体も"そういうこともあったかも?"と思わせる内容で、楽しく読めた。
ただし、明らかな男性視点の性的表現の部分には違和感。物語へつなげる工夫はしているものの女性が読んだら不愉快で余計な表現と感じそう。発表された2005年時点では、この程度の表現は、まだ許容範囲だったのかもしれない。

2015.09.09

なんとなくクリスタル(田中康夫、河出文庫、Reader Store)

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2015.09.05読了

巻末に本文とは直接の関連なしに出生率低下予測のデータが書かれていたという点で話題になっていたので、30余年を過ぎてようやく読んでみた。確かに少子化までは示しているが高齢化には踏み込んでおらず、子供一人あたりの消費額が増えるというメッセージだったのだろうか?

この本は自分の大学進学の少し前にベストセラーあるいはそれ以上の社会現象になっていたが、ブランド品には全く縁がなく東京へのあこがれも全くなかったので完全に無視していた。今読んでみると、その後のバブル経済での過剰消費に向けたガイダンスとなっているのは明らかで、物を売りたい人たちが大歓迎で持上げたのだろう。

本編にはあまり内容はない一方で、ファッションブランドと洋楽が中心の詳細な注記のほうが話題となったが、結局のところは受験勉強の応用編。それでもブランドの氾濫を経験していない当時の人達には大いなる発見だったのだろう。でも当時、読んでいたら生活が変わったかと考えてみると、完全に否定できる。別の人種の別世界の話であったことは間違いない。

また、バブル崩壊以後に顕在化した"自由に消費できない人(貧困層)"の存在は完全に枠外になっていて、国民総中流と言われていた時代性からくる限界も感じる。その点でも出生率が重たい提言だったとは考えにくいと感じる。

面白いのは主人公が東京へ来るまでの間に住んでいた神戸が、おしゃれな街とされている点。今でも人気観光地だが、当時は別格だったように記憶している。ポートアイランド開発やポートピア博へ向けた準備など全国に紹介される機会が多く、メディアへの露出頻度が投資を呼び込んでバブル経済が先行していたのかもしれない。この後に続く大阪での花博など、バブル期までは関西も大いに栄えていたと思うのだが、バブル崩壊と阪神大震災が重なった90年代半ばの時期が、関西の凋落の始まりだったことを思い出した。

2015.08.16

映画:風立ちぬ(スタジオジブリ 宮崎駿監督長編引退作品)

家内がずいぶん前に録画していた、ジブリの風立ちぬを観た。

マニアックな飛行機ネタ満載の映画だが、普通の人にはわからない。ただの恋愛ものとして観たら、ひどい男という評価も当然かもしれない。
Wikipediaを見ると、原作があってモデルグラフィックスというプラモデル雑誌に連載されていたもので、映画にすることに無理があるなあと思う。

引退作品として、作りたいものをそのままに作ったので、「わからない人にはわからないよ」と、主題歌の「ひこうき雲」の以下のフレーズで説明されているような気がした。
 高いあの窓で あの子は死ぬ前も
 空をみていたの
 今はわからない
 ほかの人にはわからない

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